耽美主義とロードバイク

耽美主義とロードバイク

速き者すべてが備えている形状~流線型

「流線型」という言葉があります。スポーツカー好き少年であれば、中学校の生物の授業で「なぜ魚類はあのような体型をしているか」について習う前から知っているものです。

クルマでもバイクでも同じですが、サーキットで高速走行する際は、空気抵抗をいかに軽減し、なおかつ空気の壁を機体の走行安定性に転嫁できるかがレースに勝つカギとなります。

その究極型は言わずと知れたF1のレーシングカーでしょう。主に曲線で構成された流麗なフォルムは、物理的だけではなく視覚的にも速さが凝縮されているものであります。

 

実用性と引き換えに生み出された、そのフォルム

すべてのカタチには理由があります。自転車のタイヤでいえば、砂利道など悪路を走るためにブロックパターンのタイヤを装着しますし、アスファルトを中心に、パンクしないための強度を持たせたスリックタイヤがあります。

歩道や段差で負担なく走破するために太めのスリックタイヤを装着するのはクロスバイクですが、ロードバイクのタイヤは親指ほどしかない細いデザインであります。路面との設置面積を最小とし、軽量化を図るためです。

実生活でロードバイクを使うとなれば、段差の衝撃でお尻が痛くなったり、パンクの危険がより高まったりするリスクがあります。

それでもなお、なぜあのようなデザインなのか? 答えはひとつ。

「速く走る」という、ただそれだけを追求した結果だからです。

ロードバイクをクルマで喩えれば、ズバリF1です。クロスバイクはスポーツカー、ママチャリは大衆車といったところでしょうか。

だからこそ、ロードバイクは速く走るためにジャマになるパーツは一切排除されています。キャリアもフェンダーもスタンドもありません。止める際は、地面に寝せるか建物の壁に立てかけるのみ。

低めに設定されたドロップハンドルや、高めに設定されたサドルも前傾姿勢を維持するための形状であり、高速走行しない限り、ただひたすらあの体勢は辛いだけであります。視認性も落ちますし。

このように、ロードバイクはレースやロングライド以外の目的では実に使い勝手が悪い、不便きわまりない機体でもあります。街乗りで使うなら軽快で乗り心地が良いクロスバイクとなります。

ロードバイクに限らず、スピードだけを求める機体が引き換えにしたものは多数あります。それでもヒトは古今東西を問わず、スピードの魅力に強く惹きつけられるものであります。

 

最速を極めた者は、すべからく造形美を漂わせる

こうした理由から、ロードバイクに乗らないヒトにいくらその良さを説いたとしても、なかなか理解が得られないものであります。

かつての僕もそうだったので、どんなに力説しようが理解が得られないのは良く判ります。あの前傾姿勢はとても辛そうだし、あれを乗りこなすためには相応の運動神経が必要そうだし、何より値段がバカ高いし…。

それでも、お店で試走車に乗らせてもらって一発でナットク。以来、数十万円のおカネが飛んでいきました。結果として心身ともに恩恵を受けているので、全然ムダ遣いとは思っていません。

すっかりスポーツ自転車のトリコになってしまったのですが、ここまで男子のココロをガッチリつかんで離さないのは、走りの魅力だけではありません。そのフォルムにも魅力が凝縮されています。

 

走って良し、眺めて良し~ロードバイクの愉しみ方

レーシングカーや戦闘機だけでなく、自然界にも究極の速度や運動能力を誇る有機体はいくつも存在します。

たとえばハヤブサ。獲物を狙い上空から降下する際の最高速度は380km/hを超える地上最速の生物であります。陸上最速はチーター、水中の最速生物はマカジキで、いずれも100km/h超を誇ります。

彼らは生きるための戦略としてスピードを獲得しましたが、同時にムダを削ぎ落とした造形をしています。そして僕は、彼らの造形に、どうしようもないほどの美しさを覚えます。

そしてロードバイクもまた、最速を極めた機体だけが持つ造形美を獲得しています。スチールで構成されたスリムでシャープなフォルムも美しいですし、カーボンで構成された緩やかな曲線型にも美しさが宿っています。

ロードバイクは室内保管が原則となります。高価で軽量なロードバイクは盗難のリスクが高いからですが、それを美術品のように専用のスタンドで固定して眺める愉しみもあります。ちょっと個性的なインテリアとして。

あるいは、ロードバイクをローラー台に固定して室内トレーニングに用いる。かなりハードなメニューとなりますが、室内で考え得る最高の有酸素運動が可能となります。

僕は1年の約半分が雪と氷で閉ざされる極寒地帯で暮らしておりますので、必然的にロードバイクは、真夏のロングライドを愉しむため、そして体型を維持するためのツールとなります。

ですが、こだわりのシングルチェアに腰かけてお酒を愉しみながら、酒の肴として自慢の一台を眺めるのもオツなものであります。

ロードバイクのように機能美と造形美を宿しつつ、いつでも俊敏に動かせるカラダを維持していきたいと願いながら。

 

速さへのこだわり~根底にあるのは耽美主義

僕は物心がついた頃から速き存在に強く惹かれてきました。スポーツカー、レーサーレプリカ、エレキギター、そしてロードバイク。

なぜスピードに惹きつけられてきたのか自己分析してみたところ、行き着いた答えは「自分が耽美主義者である」というものでした。美しいと思うものをそばに置いておきたい。そして、スピードを宿す存在はすべからく美しさをも宿している。だから惹かれるのだと。

美しいものだけを身の周りに置いておきたい。自分の体型も同じ。体格に人一倍強い劣等感があるのも、そうした欲求が強すぎるからなのでしょう。

だからロードバイクを擬人化して、自分もそうでありたいと思うのだと思います。でもそれは、前向きに考えれば「望みどおりの体型を維持すれば健康にもイイ」生き方につながるハズです。

もっとも、現時点においてはとても理想どおりとはいえず、むしろ加齢とともに理想から遠ざかっていくのが現実であります。

あとは1ミリでも理想に近づくために、執念と努力あるのみです。