法外な修繕費用を請求されたので弁護士に解決を依頼したら(後編)

法外な修繕費用を請求されたので弁護士に解決を依頼したら(後編)

反撃開始~書面で繰り広げられる攻防の序章

その弁護士センセイは僕よりもひと回り若く、見た目はそれ以上のベビーフェイス。

ですが、年齢が若いというコトは、それだけ早く司法試験を突破した優秀な弁護士という証拠でもあります。

たぶん僕の経済状況を慮っての提案だったのでしょうが、センセイは、「お代はいただきませんので、ゼロさんが文書を送っては?」と、僕でもやれそうな対応策を丁寧にご教授いただきました。

ですが、身に覚えのない不当な言いがかりをつけられたコトに対する落とし前をキッチリつけさせるためには、シロウトの僕ではどう考えても力不足であります。

そこで、ここは友達勘定を抜きにビジネスとして、僕の名誉を回復するためであれば然るべき報酬はいくらでも支払うと返答。正式に仕事を依頼したのでした。

報酬と引き換えに、キッチリ結果を出してもらいたいと訴えたところ、「判りました。ゼロさんがそういうコトであれば…」と、センセイも快諾。

早速、弁護士を通じ、相手方に文書を送付。理不尽な要求には決して屈しない、法廷闘争も辞さないと宣戦布告した次第であります。

 

はじめて目の当たりにする弁護士の凄み~理系人間の文書の威力

センセイいわく「今後はゼロさんの代理人として僕が対応します。もし相手から電話があっても対応しないでいいです。弁護士に一任していると拒否してください」とのこと。

本当に心強い言葉でした。

よくテレビドラマや小説で見かけるシーンですが、実生活で直面すると、この一言がいかに心強いものであるか、体験したヒトにしか判らないものであります。

センセイの仕事は、それはもう迅速かつ丁寧なものでした。

センセイから送付する文書はすべて僕を通じ、僕の承諾をもとに相手側に送るというものでした。また、相手側から送られる書面についても、すぐに僕に公開してくれました。

「ゼロさんの懲罰感情は判りますが、あまり追い詰めて裁判を起こされたら、ゼロさんの負担が大きくなります。相手が諦めて訴えを取り下げるよう、やんわりとした書面にしてあります」

僕としては、相手からセンセイに送られてくる誹謗中傷の手紙の数々に憤っておりましたが、センセイの配慮を受け入れるコトにしました。ここはプロの指示に従うべきと判断したのです。

それにしても驚いたのは、センセイが作成する文書の凄さでした。曖昧な抽象論は一切なし。理路整然と事実と証拠を列挙し、相手の訴えに対しては専門用語を駆使して応戦。

僕も障害者ケアマネとして文書を駆使するのが仕事ですし、事務屋として長らく仕事をしてきました。正直、文書を構成する能力にはちょっとした自信があります。

ですが、抽象的かつ相手の心情に訴える文系人間が作成する文書とは一味違う、理系人間の文書の凄みを知るコトができた次第です。

わが身に起こった民事トラブルは実に苦い思い出ではありますが、弁護士の凄みを知るコトができたのは、僕の人生において大きな収穫となりました。

 

法律のプロが繰り出すワザの数々~徐々に追い詰められていく元家主

「そちらが損賠賠償の訴えを起こした以上、それに相応しい証拠を提示されたい。合理的な証拠さえあれば、こちら側としては然るべき弁償をする用意がある」

センセイは冷静沈着かつ理路整然と追い詰めていきます。

その報告を読むうち、相手が反論をすればするほど墓穴を掘っていき、それを後押しするかのような様子が脳裡に描写されていきました。

わがマチにおけるリフォーム代金の相場を調べ上げた。同等の条件であれば弁償金を支払う

だが、それ以上の支払いを求めるというなら、証拠を含め具体的根拠を提示されたい

もっとも、賃貸契約を解約して3ヶ月以上も経過した後にもなってから証拠を提示するのは困難と思われるが…

このように、相手の理不尽な要求をひとつずつ論破しながら、次の出方を待つワケであります。

大家としては「あの凡庸そうなシロウトが、まさか弁護士を擁立してまで反撃してくるとは…」といった想定外の心境だったコトでしょう。

とはいえ、いちどケンカを売ってしまった以上、振り上げた拳を下げるワケにもいかない。

僕を舐めてかかった報いを受け、勝ち目のないケンカを続ける状況に立たされたワケです。

次第に追い詰められ、ダンマリを決め込む以外に打つ手がなくなっていく。僕はそれを、傍観者の立場で俯瞰するのです。

まるで、完全犯罪を信じていたハズの真犯人の論理的矛盾を突き、ジリジリと追い詰めるコロンボ警部の如く、勝敗はシロウトの僕にも明らかでした。あとは時間の問題です。

 

そして訪れた完全勝利~賃貸トラブルの終焉

ところが、その後もセンセイの事務所には大家から誹謗中傷の手紙が届き、僕が住んでいた部屋の写真や虫の死骸を同封して、僕が借主としていかに契約違反をしたか切々と訴えてきました。

しかしながら、どれも法廷で容易に覆されるとしか思えないチープな証拠ばかりでした。

よくもまあ、この程度の「証拠」で、僕から多額の現金を巻き上げようと画策したものだと呆れるばかりでした。

なかなか敗北宣言をしない相手に対し、最終的にセンセイから提案があったのは、相手に「債務不存在確認」の訴えも辞さないと意思表示し、心理的重圧をかけるというものでした。

僕とセンセイが提案した解決策に相手側が異議を唱え、交渉が決裂した際を想定したもので、「交渉が決裂した場合、こちらとしては債務不存在確認の訴えも辞さない」と書面を送ったワケであります。

ところで、「債務不存在確認の訴え」とは、相手から僕に対してお金を払えという訴訟と逆バージョンの訴えを起こすものであります。

「大家が僕に権利主張をするのであれば、それを訴訟で立証せよ。立証できなければ、あなたの権利は裁判でも認められない」という訴訟であります。

債務不存在確認の訴えは、「権利の存在の立証責任は先方(大家)にあるので、基本的に立証手続きをさせ、合理的な支払額を確定させる手続き」をさせるというものであります。

これは余り使われることがない訴訟類型だそうで、「先方が仮に立証できなければ、当方の勝訴になります」とのコト。僕も初めて耳にする法律用語でしたし、相手も同様だったコトでしょう。

ただし、「一定部分は先方の請求は認められるでしょうから一部勝訴、一部敗訴という結論が予想されます」との話もありました。

いったん訴訟となれば、交通事故でいうところの「ジュウゼロ」にはならないとのコト。

それでも僕に異論はありませんでした。センセイが僕の溜飲を下げるための配慮をしてくれた策でもあったからです。

つまり、「相手に経済的なダメージを負わせるには、裁判にもっていき、先方に弁護士を付けさせるということが一番大きい」という想定のもとで提案されたのでした。

もし、僕が債務不存在確認の訴えを起こせば、大家は僕に十数万円の原状回復費用を負わせる根拠を法廷で提示しなければならないのです。当然、時間も労力もおカネもかかる。

あの大家にそれだけの能力があるとは思えない。となれば、向こうも弁護士を立てるコトになる。ですが、センセイの話では、民事訴訟として依頼すれば最低20万円かかるそうです。

たとえ僕に勝訴したとしても、大家は裁判費用と差し引きでマイナスになるのです。

センセイから書面が送付され、あとは大家の出方を待つコトに。果たして大家は僕にケンカを売ってくるのか? ならば、そのケンカを買うまでの話。最後まで徹底抗戦あるのみ。

しかしながら、大家にはそこまでの覚悟も気概もなかったようでした。すっかりダンマリを決め込み、それ以降の音沙汰は今日に至るまで一切なし。なんとも拍子抜けした結末でした。

こうして、ノーリアクションという行動をもって、大家が僕たちに完全敗北を認めたワケであります。

 

「かかりつけ医者」と「かかりつけ弁護士」を~長い人生を安心して送るために

この件を振り返って思うのは、「コネ」こと人脈によってトラブルを切り抜けられただけでなく、「法律は強き者の味方ではなく、知っている者の味方」という教訓を得られたコトの大きさです。

もし、異業種交流会でセンセイと知り合っていなかったら、弁護士に仕事を依頼するコトに躊躇したと思いますし、お互いに気心が知れていたからこそ迅速に対応できたのだと思います。

また、民事トラブルの解決に自信がなければ「法律のプロ、つまり弁護士に仕事を依頼する」という手段さえ知っていればイイのです。僕ら自身が法律に精通した「強き者」である必要はないのです。

多くのヒトは、セッセと病院に通い、かかりつけ医者にお金を支払うコトに何の躊躇もしないものですが、かかりつけ弁護士を持っておくという考え方をしているヒトは非常に少ないです。

しかしながら、事故や病気だけでなく、法的トラブルもまた人生において、いつ誰に降りかかるか判らないものであります。

顧問弁護士というのは大袈裟ですが、困ったときのために「何かあったら相談できる弁護士」と知り合いになっておくコトを、長い人生を安心して送れるための担保として考えておくべきです。

その意味では、僕には何の不安もありません。

僕には絶対的な信頼を寄せられる「センセイ」が付いていますので。