担当していた相談者が訴えられた~支援困難ケース①

担当していた相談者が訴えられた~支援困難ケース①

裁判所から届いた召喚令状。刑務所や拘置所での面談。弁護士の依頼を受け、被告側の証人として証言台に立つ。そして判決の日。「主文。判決は有罪。ただし、その執行を猶予する…」

どれも、刑事ドラマで見慣れたお馴染みの光景です。

別に珍しくもないシチュエーションの数々ですが、それは他人事で傍観しているからで、これが当事者の立場として関わったとしたらどうでしょう? 人生の一大事ではないでしょうか。

すべての障害者ケアマネが経験するワケではないのですが、担当する相談者がこれらの事件を起こしたり巻き込まれたりすれば、当然、無関係ではいられません。

幸か不幸か、僕はそのいずれも体験した数少ない(?)障害者ケアマネのひとりであります。

そこで今回は、僕が過去に体験したハード&ディープな相談支援の事例から、特に思い出に残るエピソードの数々を3回シリーズに分けてご紹介したいと思います。

 

すべての借金返済に5年半~ガー子さんの事例

2010年代の初頭~中盤にかけての話になりますが、僕がこれまで担当してきたケースの中で強烈な思い出として脳裡に残っている相談者に「ガー子さん」がいます(もちろん仮名)。

ガーコさんは僕にとって支援困難ケースのトップ3に入る、彼女のエピソードだけで当ブログが軽く30記事は書けるほどの支援課題を抱えていたヒトでした。

ガー子さんは療育手帳を持つ知的障害者。養護学校に通う次女を受け持つ担当教諭が支援依頼してきた当時、ガー子さんは次女との2人暮らしでした。

四十九日を終えて間もない亡夫は生前、ロクに仕事もせず、家族やきょうだいに無心を繰り返しながら酒浸りの生活を送った末に多臓器不全で他界。

長女にも知的障害があり、この両親に養育能力はないと判断され、卒業後すぐに障害者支援施設に入所していました。

以下、困りに困って相談にやってきた次女の担当教師のお話。

*   *   *

夫の親族が葬儀を執り行った後、この一家に数百万円の借金があるコトが判明。そのほとんどを相続放棄で処理したが、妻名義のカードローンだけは相続放棄ができない。

夫の親族としても借金の肩代わりはできない。ガー子さんが責任をもって返済しろという。

そうなると、ガー子さんに支払われる障害年金や作業工賃、それでも不足なら次女の特別児童扶養手当から分割で返済するしかない。

ところが、物欲と購買欲が人一倍強く、通販マニアのガー子さんが計画的に返済できると思えない。

また、現時点でダンマリを決め込んでいるが、カードローン以外にも未払金が多数あるらしい。

次女のコトは、卒後の生活を含めて学校が全責任を持って対応する。そこでゼロさんには今後、ガー子さんの相談支援を担当してもらえないだろうか?

*   *   *

他にもガー子さんの支援課題は山積していたのですが、今回はカードローンにまつわる金銭トラブルに限定して話を進めます。

 

「あたしが何もできない女だって思ってるのか!?」

ガー子さんは、誰かに物事を決められるのを極端に嫌うヒトでした。

後に判明するのですが、それは単にワガママを言っているのではなく、知的障害があるコトによってバカにされたり、苦労したりといった辛い経験によるものでした。

「みんな、あたしばっかり悪く言う!」といったグチ話を何度も傾聴。

そんなガー子さんの金銭管理を成年後見人に依頼する話にはなりません。「なんであたしのお金を管理されなきゃならないんだ!」と激怒するに違いないからです。

そこで、特別児童扶養手当が入る通帳を特例中の特例として学校が預かるコトに(もちろん、ガー子さんの承諾を得て)。

ガー子さんの障害年金と作業工賃は自己管理。そこから、カードローンの借金をガー子さん自身が振り込むコトになりました。

なお、月々の返済は、当時のガー子さんの収入で充分に返せる程度の金額でした。

ところが、どう見ても返しているようには見えない。訪問するたびに、通販で購入したらしい過剰な食材や怪しげなサプリメントが増えていくからです。

次から次へと、僕が相談支援に入った頃にはなかったハズの品々が増えていく。

「カードローンの借金、ちゃんと返してますか?」との確認も、ついにブチ切れモードに。「うるさいなあ!! あたしが何もできない女だって思ってるのか!?」

電話越しに怒鳴るガー子さんの様子から、これ以上は追求しない方が得策。

もし、借金を返していないのであれば、いつか相応の報復があると想定しつつも、「あたしはちゃんと払ってる!」を鵜呑みにして引き下がり、そのまま様子を見守るコトに。

 

いつかはこの日が来るだろうと~裁判所からの最後通告

それから数ヶ月後のある日、僕宛てにガー子さんから電話がありました。

「ゼロさん。あのさあ…」いつになくテンションが低く、歯切れの悪い口調で「…なんか判んないだけど、封筒が届いた」との話。

「何か? なんて書いてあります?」僕の問いには終始無言。どうも様子がおかしい。

ガー子さんは単純明快で、ウソがつけないヒトでした。きっと何か疾しいコトがあるのでしょう。一抹の不安を抱えながら向かいました。

ガー子さんは、玄関先で僕を待っておりました。手には件の封筒が。「これなんだけど…」。

その封筒には郵便局から不在着信の印鑑が多数押されておりました。本人への手渡しが義務付けられた内容証明郵便。それほど重要な書類というコトであります。

イヤな予感は見事に的中。送り主はわがマチを所管する家庭裁判所。封筒の中身は調停裁判の召喚令状でした。原告は、ガー子さんが借金を滞納していたカードローン会社。

要約すると、「こちらとしては、もう金利は諦めたので原資だけでも返してもらいたい。その旨、ガー子さんに何度も伝えて返済を求めたが一向に支払いがない。ついては一括で返済してもらいたい。それができなければ調停裁判を起こす。異議があれば申し出されたい」というものでした。

思わず、ガー子さんを厳しい視線で一瞥。バツが悪そうに目を逸らすガー子さん。書かれている内容を説明し、釈明を求めました。

ガー子さんも、さすがにヤバい代物であると察知していたのでしょう。いつものガー子さんなら、中身も空けずにゴミ箱行きになっているハズだからです。

「どういうコトですか? ちゃんと借金を返してるって僕に言いましたよね?」

「…」

「あの話、全部ウソだったんですか?」

「…うん」

「向こうは本気で怒ってます。こんなの送りつけてくるくらいなんだから。このままいったらガー子さん、持ち物を全部取り上げられて一文無しで放り出されるコトになります」

「…」

「最悪、ガー子さんも次女さんも、この家に居られなくなるかも知れませんよ」

「…」

崖っぷちに立っている現実が痛感できない限り、ガー子さんは本気で借金返済をしない。

そう判断し、あえて厳しい物言いをした次第です。いずれにせよ、このままでは強制執行をかけられ、僕が予言したとおりの展開になるのは火を見るより明らかでした。

ところが、裁判所はガー子さんへの救済策として、妥協案を提示しておりました。「異議申立書」なる書類が同封されていたのです。

記載事項を一読すると、「これまで滞納してしまい申し訳ありませんでした。

ですが、御社が提示する一括支払いはできません。これからはマジメに返済すると約束しますので、今回だけは大目にみていただけないでしょうか?」と返信できる様式になっていたのです。

そこで、ガー子さんに以上の件を説明。彼女の理解と覚悟を求めたのでした。

もし、本気で借金を返済すると約束できるなら、僕がガー子さんの代わりに返事を書く。

それで向こうが赦してくれたら、借金を返すと約束できるか? 決めるのはガー子さんだと。

結果、ガー子さんは「これからはマジメに返す」と約束。

そこで、預かった異議申立書を事務所に持ち帰り、上司と協議の上で必要事項を記載して裁判所へ返送したのでした。

 

カラダで痛い思いをしないと覚悟が決まらないヒトもいる

裁判所を経由して届いたカードローン会社から届いた返事は、実に速やかで簡潔なものでした。「ガー子さんがマジメに返済してくれるのであれば、訴えは取り下げます」と。

今回の一件がよほど堪えたのでしょう。

ガー子さんは持ち前のルーズさで、何度も期限を過ぎて「カードローン会社から問い合わせの電話が来る!」と立腹していましたが、僕との約束を守り、最後までマジメに返済を続けました。

こうして、およそ2年をかけてカードローンの借金を完済。

ところが、ガー子さんが新たにこしらえた借金や、本人ですら忘れていた未納金の数々が次々に発覚。

ガー子さんの借金返済の日々はその後も続き、すべての借金を返し終わるまで約5年半の長い歳月を必要としました。

その件については、また別な機会に。