成年後見人の存在意義とは~支援困難ケース③

成年後見人の存在意義とは~支援困難ケース③

措置から契約へ~成年後見制度の設立

僕が社会人になって数年目、ミレニアムを迎え世間が大騒ぎしている頃、福祉業界でも一大センセーションが巻き起こっておりました。介護保険制度の導入です。

もはや常識となった「措置から契約へ」のスローガンは、介護保険制度の象徴そのものでした。

介護保険では、福祉サービスは利用者の自由意思でサービス提供事業所を選び、利用者と事業所の契約によるサービス利用を原則とする。

これまでのように行政から一方的にサービス利用を決められるのではなく、利用者が好きに事業所を選んでサービス提供を受ける。

でも、チョット待てよと。介護職なら誰でも気付く「ある疑問」がそこにはありました。

そもそも高齢化社会の到来によって増え続ける認知症の高齢者を身内だけではなく社会全体で支えるというのが介護保険の理念。

ならば、認知症で判断能力が不充分な高齢者が適切な契約行為を行うコトができるのか?

認知症がなくても知的障害がある高齢者は大丈夫か?

そこで、介護保険制度と同時に開始されたのが成年後見制度でした。

認知症や知的障害などで判断能力が不充分だと認められる利用者が不利益を被るコトがないよう、契約代行などの身上監護や金銭管理を親族あるいは職業後見人が行うというものです。

ちなみに、職業後見人になれるのは、弁護士、司法書士、行政書士などの司法業界の専門職です。なお、福祉業界の専門職としては社会福祉士が職業後見人になれる資格があります。

 

保佐人、生涯のバディとして~ポン子さんのケース

障害福祉における相談支援でケースが抱える支援課題には大きく分けて「金銭トラブル」と「対人トラブル」の2つがあります。

というか、すべてのトラブルはこの2つに集約されると断言しても過言ではありません。

僕が前職で担当していたポン子さん(もちろん仮名)は、中度の知的障害がある20代女性で遠方在住者でした。

遠方というのは、もともと交際相手と同棲していた居住地がわがマチから100Km以上の地方都市だったからで、その交際相手のDVから逃れるカタチでわがマチへ避難してきたのでした。

最低限の着替えと洗面道具の他に何もない状況からの支援開始でした。

そこで、まずは受け入れしてくれるグループホームを探し、交際相手にバレないための措置を講じたり警察に定期的な見守りや保護を頼んだりしながらポン子さんの身の安全を確保。

次に、障害福祉サービスの利用手続きを行い、福祉的就労への支援を開始しました。

ポン子さんにとっての強みは事故で亡くなった親の遺産があったコトと、倹約家でムダな浪費は一切しないコトでした。また、働くのが好きで、僕が紹介した福祉就労所に毎日休まず通う。

支援は一見、順調かに思われました。

ポン子さんには多額の遺産があり、小口現金をグループホームで預けるように対応してもらうワケにはいきません。預金通帳を貸金庫に預ける検討もしたのですが、最寄の銀行は一見さんお断りでした。

そこで、成年後見制度の利用に向けて支援を開始しました。まずは誰に引き受けてもらうか?

単純に、若い女性なので女性の職業後見人が良いであろうと判断し、仕事を通じて面識があった女性司法書士に依頼しました。

次に、わがマチの精神科病院で、ポン子さんに検査を受けてもらいました。結果は「後見・保佐・補助」の3類型のうちの保佐相当というものでした。

後日、「百聞は一見に如かず」の喩えどおり、まずは女性司法書士と面会してもらい、ポン子さんが承諾すればすぐ手続きに入るつもりでしたが、「このセンセイがいい」とポン子さんが即断。

家庭裁判所への申請手続きはすべて「センセイ」に依頼し、センセイに保佐人をしてもらうことで審判が下りました。

 

何年も続いた自傷行為~「正しいSOS」の方法が判らない

僕が前職を辞める頃にはすっかり落ち着き、かつての数々のトラブルなどどこへやら、涼しい顔で僕の退職を見送ってくれたポン子さんでしたが、支援当初から数年間はさまざまなトラブルを起こしておりました。

当時のポン子さんの問題行動は、リストカットや過剰服薬などの自傷行為でした。

「元カレからメールがきた。私に何かしてやるって」「友だちに、元カレが私を探してるって聞いた」「伯父さんがお母さんの遺産を寄越せっていわれた」等々。

何か精神的な負担になるコトがあるたびにリストカットを繰り返していたのでした。

外科的な処置が必要なほどではないものの、腕や肩をカッターナイフで切りつける。なんど没収しても刃物を購入してくる。

その繰り返しで「もうウチでは面倒みれない」とグループホームから退去要請があり、次のグループホームでも同様の結果に。

そして、3ヶ所目のグループホームでも自傷行為を繰り返し、ついに精神科病院への入院となりました。

それにしても、なぜポン子さんは自傷行為を繰り返すのか?

そこで、ポン子さんの退院支援に向けた支援者会議を招集。ポン子さんの退院1ヶ月前、司法・医療・福祉の担当者が初めて一堂に会し、話し合いが行われました。

主治医の所見は、「被虐待児として親から充分な愛情を受けられずオトナになったコトによる愛着障害と思われる」というものでした。

そこで支援チームとしては、主治医の指示に基づき、それぞれの立場でポン子さんに対し、可能な範囲でコンタクトを取るコトによって支援するという方針を立てました。

要は電話やメールではなく、ポン子さんと「直接会って」話をする機会をそれぞれの立場で設けるというものでした。

被虐待児は正しいSOSの出し方を知らずにオトナになります。だから社会的には認められない不適切なSOSの出し方をする。

自らのカラダを傷つけたり、どこかで買ってきた薬を大量に飲んでフラフラになったりと。

フツウの子供であれば、正しいSOSを出せば親が力になってくれる。こうして親の愛情を感じながらオトナになる。でも、ポン子さんの親はそうではなかった。

間違ったSOSを出さなければ、誰も助けてくれなかった。そんな幼少時代を送ってきたのでしょう。

支援者の誰もが守ってくれる。そうした安心感をポン子さんに抱いてもらい、充実した毎日を送ってほしい。わがマチに来てくれた以上、必ず幸せになってもらいたい。

私情は禁物ですが、一生懸命仕事をしながら真剣に生きている相談者であれば、採算度外視で応援したいと思うに決まっています。

友人にも親族にもなれないけど、ポン子さんに信頼される支援者になら充分なれる。

否、相談支援のプロとしてそうならねばならない。

それから数年間にわたり、毎月1回、ポン子さんが暮らすグループホームへ行って面会するコトになりました。

退職後に支援を引き継いだ女性スタッフを伴い、ポン子さんと他愛ない世間話をして帰る。そのやり取りが、僕が退職する1ヶ月前まで続きました。

 

成年後見人は生活すべてを支える存在

基本的にムダ遣いは一切しないポン子さんでしたが、今時の若い女性と同じ、ケータイ大好きなヒトでした。

誰かと話したりメールするくらいなら良いのですが、課金ゲームやジャニーズ系のアイドルサイトにハマったようで、月2~3万円を超える支払いになる。

そこでセンセイが、不眠に悩むポン子さんに、ケータイを夜間のみグループホームのスタッフに預けるのはどうかと提案。「センセイの提案なら」というコトでポン子さんも納得。以来、ムダ遣いがなくなりました。

一方、ジャニーズ好きなポン子さんに、「節約ばかりしろとは思ってません。

ポン子さんにとって豊かな人生になるためなら使って下さい」と、普段マジメに福祉的就労に励んでいるポン子さんがコンサートに行きたい時は、快く承諾しておりました。

このように、成年後見人は単に金銭管理や契約代行といった法的行為をするだけの存在ではありません。

もちろんそれで充分な相談者もいるでしょうが、福祉的支援を必要とする相談者にとって、成年後見人もまた支援チームの一員。頼りにしている大切なひとりなのです。

そう、ポン子さんにとっての「センセイ」のように。