映画から学ぶ障害福祉と人間心理
- 2018.12.04
- 社会福祉士

ヒトの心情の機微を教えてくれるステキな映画
障害者ケアマネとして仕事をする中、公私とも数えきれない勉強会に参加してきました。
そのうち、精神保健福祉士の勉強会は、長年にわたり参加し続けている数少ない会合のひとつであります。
その勉強会は月1回の夜間に開催されるのですが、企画運営はすべて自分たちで行っています。
年度初めに企画グループを設定し、開催月をそれぞれ決めて、あとはグループに一任。それぞれが勉強会のテーマや内容について独自に企画運営していきます。
テーマによっては外部講師を招いてスクールスタイルで研修を行うグループもありますし、日々の業務についてざっくばらんに話し合う茶話会や、事例検討会を行うグループワークもあります。
過去にさまざまな勉強会が企画された中で、一風趣向を凝らした勉強会が映画鑑賞でした。
といっても映画館ではなく、わがマチの市民活動センターでDVDを鑑賞するものでした。
その際に上映されたのが、2008年にイタリアで公開され、日本では2011年に公開されたイタリア映画「人生、ここにあり!」です。
イタリア映画に学ぶ障害福祉のリアル
その映画は、僕がかつて学校行事で見せられたような、説教臭いストーリー展開による教育映画とは一線を画するものでした。映画である以上は面白くなくては。
「人生、ここにあり!」は、エンターテインメントとしても一級品でありながら、精神疾患を抱えたヒトたちの地域生活をリアルに描写していました。
「政府の施策によって強制的に退院させられた元患者の地域生活の現実」という重いテーマを扱いつつ、イタリア映画らしいオシャレでウィットに富んだユーモアが随所にちりばめられている。
本国イタリアでは、54週にわたるロングランを記録したとのコトです。
これからこの映画を視聴するヒトもいるでしょうから、あらすじや登場人物の詳細については見てのお楽しみとします。
しかしながら、コレでは映画の素晴らしさが全く伝わりませんので、ストーリーの詳細には極力触れない範囲で、この映画についてご紹介したいと思います。
この映画は、イタリアでの実話をもとに製作されたものです。
世界初の精神科病院廃絶法として1978年に施行された「イタリア精神保健法」によって、政府の施策から地域生活を余儀なくされた精神疾患を持つ元患者たちの日常を描写したものです。
ちなみに、この法律は通称「バザリア法」と呼ばれておりまして、イタリアで精神科病院の廃絶を唱えた精神科医、フランコ・バザーリア氏にちなんで命名されたものであります。
現在の日本においても、障害福祉のトレンドは「施設から地域へ」であります。
本人が地域生活を希望し、施設入所者や長期入院患者が福祉的支援や在宅での医療ケアで地域生活を送れる可能性があるなら、積極的に地域移行や地域定着を推進しなければならない。
以上の方針が打ち出されております。
このように、日本の障害福祉においても、イタリアをはじめとした欧米の福祉先進国の施策を参考としながら、地域福祉の推進に取り組んでいるところであります。
まさに人間賛歌~「人生、ここにあり!」
この映画の舞台となるのは1983年のイタリア・ミラノ。主人公は、その元患者で構成される協同組合に左遷された先進的な思想を持つ労働組合協会のリーダーです。
変革を声高に訴える熱血漢というのは、きまって異端視され、疎んじられ、組織から排除される対象となる。この主人公のように左遷される憂き目を見るのは万国共通のようです。
主人公は左遷先の協同組合で、政府がお情け程度に施した仕事に甘んじている組合員とともに「本気で稼げる仕事ができる職場」を求めて奔走するといったストーリーです。
この映画をザックリ集約すると「笑いあり涙ありのコメディ映画」となります。
序盤から、主人公や登場人物とのやり取りの中で、思わずクスっと笑ってしまう場面が何度も登場するストーリー展開ですが、中盤からは一転。
ある登場人物の、甘くて切なすぎるラブストーリーが展開していきます。
登場人物の1人が仕事を通じてステキな出逢いを迎えるコトになるのですが、その邂逅が、後のストーリーを劇的に動かしていくコトになります。
そして、そこから一気に、あのクライマックスに向かって収束していくのです。
学びのツールは、何も教科書や参考書だけではない
ネットでのレビューをチェックする限り、あの登場人物の「あの展開」には賛否両論あるようです。
しなしながら、精神保健に携わる専門職が1人でもいれば、あの展開を回避するコトができたのではないかと思ってしまいます。もちろん、傍観者としての結果論ですが。
僕は、過去に読んだ本や視聴した映画を何度も見直すコトが良くあります。ストーリー展開はだいたい覚えていますが、それまで見逃していた細かな描写などに気付く楽しみを得るためです。
ですが、「人生、ここにあり!」は、くだんの勉強会で観賞した1回のみ。いつか、もういちど見直す機会があるかも知れませんが、今のところ見直す予定はありません。
それほど、この映画のメッセージが強く心に残っているからです。
ヒトにとって賛否両論でしょうが、「面白かった。笑かしてもらったわ」で終わる映画ではありません。そうした中で、僕が最も素晴らしいと思ったのはエンディングのワンシーンです。
あのラストシーンから僕が受け取ったメッセージ。
それは「しっかり前を向いて生きろ!」という、この一言に尽きます。そのシーンにはそのようなセリフはありませんが、まるで、そう訴えてくるかのような映像が展開するのです。
観客へスクリーン越しに向けられる、登場人物たちのまっすぐな視線。そして、覚悟を決めた者特有の表情。見る者に感動と勇気を与える、あのラストシーンを見るだけでも価値アリです。
今回は映画の紹介となりましたが、素晴らしい映画や小説との出会いは人生を豊かにしてくれます。そして、障害福祉の仕事に限らず、ヒトの心情の機微について学ぶ意義はあります。
ヒトの心情の機微について学ぶためのツールは、何も教科書や参考書だけではありません。
あなたの印象に強く残った映画や小説からもまた、人生を豊かにするためのヒントやアドバイスを受け取っているハズです。
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