音の小宇宙の凝縮体~エフェクター

音の小宇宙の凝縮体~エフェクター

エフェクター~ギタリストなら誰もが1個は持っている「魔法の小さな箱」

プロ・アマを問わず、世界中に何千何万と存在するギタリスト。その足元には、シールドケーブルでつながれた大小さまざまな筐体が置かれています。

ライヴやレコーディング、練習の時でもそうですが、彼ら彼女らは演奏の合間や演奏の最中に足元の筐体をカチンと踏みつけては、多種多様な音を放出する。そんなシーンを一度はご覧になったコトがあると思います。

右利きギタリストであれば、右手は弦を弾き、左手は指板を押さえる。音量を上げたり音質を激変させる加工を施すためには、専用の機材を足でスイッチングする必要があります。足元の筐体がソレです。

そのキャラクターやメーカー独自の命名により呼ばれ方は様々ですが、それらすべてを総称して「エフェクター」と呼びます。エレキギター本来の音を加工(エフェクト)し、ギターアンプに送り込む機材です。

ディストーションやオーヴァードライヴといった歪み系が代表格ですが、鈴鳴りの美しいモジュレーション系(コーラスやフランジャーなど)や、山びこ効果を自在に操る空間系(ディレイ・エコーなど)のエフェクターも、ギタリストの誰もが1つは持っている定番でしょう。

 

エレキギターの音質を左右するのはギターアンプ、でも…

さて、エレキギターはアコースティックギターのようにボディを空洞化し、弦振動を増幅させて共鳴させる構造ではありません。ピックアップと呼ばれる部品で弦振動を捉え、それを電気信号でアンプへ送る仕組みです。なので、生音は非常に小さい。

つまり、エレキギターをシールドケーブルでギターアンプに直結すれば音は出せるワケで、電気信号の増幅部をすべて真空管でまかなう「チューブアンプ」であれば、エフェクターを使わずともギターアンプだけで歪みの爆音が得られます。

ちなみに、チューブアンプの代表格といえばイギリスが世界に誇る定番ブランド「マーシャル」で、世界中の数えきれないプロギタリストが愛用しています。日本でも、スタジオやライヴハウスで必ず1台はマーシャルのギターアンプが置かれております。

一方、歪みでありながらもギタリストのピッキングのニュアンスを生々しく再現するチューブアンプの対極として、増幅部がソリッドステートで構成された「トランジスタアンプ」も数多く出回っています。チューブアンプに比べて音質で劣る一方、安価で高出力。しかも頑丈で壊れない。

スタジオに置かれているのはマーシャルと、日本が誇る音響メーカー「ローランド」が1975年にリリースして現在もなお愛されているジャズコーラスが定番です。そして、ホームユースで、最近とみに増えてきたのがギターアンプ内部にエフェクター機能を持たせたデジタルアンプです。

これは、内臓エフェクターをデジタル化して「シミュレーター」として再現する構造で、ひと昔であれば音があまりに稚拙で使い物にならなかったのですが、「ライン6」ブランドのギターアンプのように、ライヴで使える高音質を誇るギターアンプもリリースされております。

ところで、ギタリストによって持論が異なるところもあるでしょうが、僕はエレキギターの音質を10とするなら、エレキギター本体の占める割合はほんの1~2割程度、残り8割以上がギターアンプに左右されるといっても過言ではないと思っています。

つまり、エレキギターが4~5万円程度のエントリーモデルであっても、きちんとチューニングされ(音程の弦調整だけでなく、ネックの反り具合やピックアップの高さも適切に)、安物でないシールドケーブルを使えば(安いとノイズ出まくり)、あとはギターアンプで音の良さが決まります。

極端な話、「だったらエフェクターは要らないんじゃないの?」となりますし、プロの欧米ギタリストの中には「オレはギブソンとマーシャル、それだけあれば充分だぜ!」という潔い御仁もおられます。

ですが、実際にエフェクターを1つも使わないギタリストはまずいません。練習ではともかく、ライヴでステージに立つ際は必ず何がしかのエフェクターを使っていますし、エフェクターを1つも使っていないエレキギター弾きを見たコトはありません。

 

エフェクター史と音楽シーンの変遷

時代は1990代の初頭、ハードロックに飢えていた少年時代の僕がマチの夏祭りなどのイベントで野外ライヴを観ていたあの時代のギタリストはエフェクター多数派が全盛でした。

ギタリストが持ち歩くデカいエフェクターボードには、ゆうに10個以上のエフェクターが長短さまざまなシールドケーブルで繋ぎ合わされ、さながら電子回路の拡大版といった様相を呈しておりました。あのルックスがまた、当時のキッズにはクールなコトこの上ない。

ですが、1個1万円以上のコンパクトエフェクターを大量に買い込むコトができるのは社会人か、よほどの鷹揚な金持ちの親に恵まれた裕福な一部に限られます。当時、僕が持っていたエフェクターはディストーション1つだけでした。

周りを見渡しても所持しているコンパクトエフェクターは2~3個程度で、ちょっと凝った連中は当時3万円程度のアナログ製マルチエフェクターを使っておりました。

その後、エレキギターを手放しては買い直すという無意味な繰り返しを経て、現在のバンド活動に至るのですが、社会人になってエレキギターは色々と購入した一方、エフェクターはほとんど買っていません。現在も上記に挙げたディストーション・コーラス・ディレイの3つのみです。

世間一般のギタリストのイメージは、上記のとおり他種多数のエフェクターを駆使してトコトン音にこだわる「多数派」というものでしょうが、僕は昔も今も「少数派」です。

高校生の頃にアナログ回路のマルチエフェクターを使っていたコトもありましたが、やはり単体のエフェクターよりも音質で劣る。その証拠に、コンパクトエフェクターを多用するプロはいても、マルチエフェクターを使うプロは観たコトがありません。

1990年代から2000年代のプロギタリストは、ラック式のデジタルエフェクターを山積みにして使うというスタイルが流行っておりましたが、いつしかそれも廃れていき、2010年代の現在は、かつてのようにコンパクトエフェクターを組み合わせるギタリストが主流のようです。

 

エフェクター使いは「多数派」と「少数派」に大別

エフェクターを多数所有して使い分けるか、決まったモデルを2~3個を使い回すかは、バンドの音楽性やギタリストの方向性によるものでしょう。僕が所属しているバンドでは1つのライヴで雑多なジャンルを選曲するので、本来は複数を使い分けるべきです。

ところが、多数のエフェクターを使いこなすのは本当に難しい。同じディストーションに分類されても、キャラクターが違えば音質が変わる。音質だけならまだしも、音圧や音量も変わる。系統にしても、上記の他にダイナミクス系、フィルター系、ハーモニー系…混乱する一方。

そして、ハードな曲があればバラードもあるライヴで、一定の音量を維持するのは至難のワザなのです。ライヴごとに音が違うのは当然ですが、同じライヴでは共通のサウンドメイクをしているハズです。お手持ちのアーティストで複数ライヴヴァージョンがあるなら聴き比べてみて下さい。

同じライヴで音が同じなのは、決してギタリストが手抜きをしているワケではない。いったんPAのサウンドメイクが確定した後は変えることができないのです。あとは、曲に応じてエフェクトを駆使し、表面的に音のキャラクターに変化を与えているだけなのです。

 

音の小宇宙が凝縮された筐体、それがエフェクター

このように数々の制約がある中で、エレキギター担当はいつだってサウンドメイクに苦心するコトに。また、小規模会場であれば手持ちのギターアンプを使えますが、それ以上となればリースのマーシャルやジャズコーラスを使わざるを得ない。

つまり、使い慣れないギターアンプに四苦八苦しながら、音質を左右する要素の1~2割でしかないエレキギター本体とエフェクターで自分の音を組み立ててプレイしなければならないというワケで、あとはいかに手持ちのエフェクターを使いこなすかが勝負のカギとなるのです。

僕が少数派である理由は、単に数が多いと使いこなせないし、それだけセッティングが難しくなるし、何より面倒臭いというネガティヴなものばかりです。しかしながら、少数派を貫くメリットもあります。

複数のエフェクターを同時に起動すると音が濁りますし、配線がシンプルな分だけトラブルの確率も下がります。「音が出ない!」となった場合、機材の数が多いと、どこがトラブルの原因なのかすぐに判別できないのです。

エフェクターはキッチリ使いこなせば、想像以上に素晴らしい音を繰り出してくれます。特に、歪み系は顕著です。僕はそのライヴでいったんレベル(音量)を決めたら、曲によってドライヴ(音圧)とゲイン(歪み)を上下するか、ギター本体のヴォリュームを調整するのみです。

同じ歪み系だけでも数十種類、それ以上のブランドがリリースされています。掌サイズの筐体の中には音の小宇宙が凝縮されており、ギタリストの個性や演奏力、バンドの方向性と相まって、無限のサウンドメイクが展開するコトになります。

エフェクターには本当に多種多様な種類がありますので、飛び道具的な変わりダネをここぞとばかり使う愉しみもあれば、定番モノをいかに自分好みのサウンドに昇華させるか追求していく愉しみもあります。未だに理想の音には到達していませんが。

ひとつのエフェクターをいかに駆使するか。これは他の楽器では味わえないエレキギター弾きだけの愉しみであり、ウデの見せどころでもあります。