障害者が安心して地域で暮らせるための医療ケア~訪問看護について

障害者が安心して地域で暮らせるための医療ケア~訪問看護について

利用対象となるのは高齢者だけではない~意外と知られていない訪問看護

介護保険に関わりがある仕事をしているヒトや、在宅での医療ケアを必要としているヒトであれば誰でも知っている訪問看護。厚生労働省のホームページから抜粋しますと、訪問看護とは以下のとおりであります(詳細はコチラ)。

利用者が可能な限り自宅で自立した日常生活を送ることができるよう、利用者の心身機能の維持回復などを目的として、看護師などが疾患のある利用者の自宅を訪問し、主治医の指示に基づいて療養上の世話や診療の補助を行います

訪問看護は平成3年10月の老人保健法改正により創設された制度ですが、平成6年10月1日からの健康保険法等の改正によって、老人医療の対象者だけでなく、難病児者や障害児者にも提供されるようになりました。

では、訪問看護の主な対象となる障害種別は? そう問われてすぐに連想するのは、肢体不自由や重度身体障害児者など、いわゆる身体障害者に対する医療ケアではないでしょうか。

確かに日々のバイタルチェック(血圧、脈拍、体温などの測定)をはじめ、在宅酸素、カテーテルやドレーンチューブの管理、褥瘡の処理、リハビリテーションなどの医療行為を行うのも訪問看護の役割であります。

しかしながら、在宅生活を送る障害者への医療ケアにおいて、対象になるのは身体障害者に限定された話ではありません。精神障害者が地域で安心して在宅生活を送るためにも訪問看護が欠かせないのです。

身体障害者への医療ケアについては「病院内で行われている医療ケアを自宅ベッドで行う」というように、具体的なイメージがつきやすいと思われますので、今回のブログでは精神障害者への医療ケアについてご紹介します。

 

障害者の在宅生活を支える訪問看護

精神障害者に限った話ではありませんが、訪問看護は本人の要望やわれわれ障害者ケアマネの判断で利用できるサービスではありません。あくまでも、かかりつけ病院の主治医の指示を受けて行われます。

なお、財源は医療保険であり(介護保険も可)、1回あたりの利用日数や週あたりの訪問回数については主治医の判断によって定められます。

精神障害者が地域で安心して在宅生活を送るコトができるために、どのような医療ケアが必要なのか。主治医の指示ありきですが、訪問看護から提供されるサービスは、「なるほど、それは判る」といったものから、「ソレって医療ケア?」と意外に思えるものまで多岐にわたります。

以下、僕が担当している精神障害の相談者の皆さんが障害福祉サービスと併用して利用している訪問看護の具体的な内容についてご紹介します。

精神科薬の服薬全般に関するケア

訪問ごとに行われる服薬チェックはもちろんですが、それ以外にも、処方薬の配達や、残薬の確認ならびに回収も必要に応じて行われます。

服薬チェックとは、主治医の指示どおり、きちんと薬が飲めているかについて本人と確認するものです。「なんだそんなコトか」と思われるかも知れませんが、訪問看護のケアがなければ日々の服薬が困難なケースも。

一般的に、精神疾患の診断を受けた患者に処方される薬の種類は多岐にわたります。さらに服薬を必要とする内部疾患があれば、精神科薬に加えて多量の服薬をしなければなりません。

このようなケースの場合、朝・昼・夕・就寝前と、服薬ミスを予防するために大量の薬を服薬カレンダーに小分けにするだけでも相当な手間と苦労を要します。

訪問看護では、服薬が多量となる患者の場合、経費削減と本人が判別しやすくなるコトを目的とし、大きめのお菓子の空き箱の中に仕切りワクを設け、手作りの配薬ボックスを作成するコトもあります。

また、医師の指示を守らず精神科薬を多量服用するヒトもいますし(精神的に不安定になって多量に飲む等)、逆に、ルーズな性格なのか飲み忘れが多く、多量の残薬を繰り返すヒトもいます。

以上のケースについては、訪問看護に携わる看護師や保健師が、多量服薬するヒトには主治医の指示に基づく指導を行い、多量の残薬を繰り返すヒトには週2回に分けて薬を届けたり残薬を回収したりします。

日中活動に関するケア

精神疾患の病状の程度によって、かろうじて在宅生活の継続ができても、一般就労はおろか福祉的就労ですら困難なヒトがいます。健常者とは比較にならない疲労を感じたり、対人面で強い緊張を感じたりするのです。

信頼関係が構築できている支援者とのマンツーマンによるケアが精一杯というヒトに対し、訪問看護では主治医の指示にもとづき、医療ケアではないサービスを提供するコトがあります。

僕が担当する相談者にモリカワさん(仮名)という統合失調症の男性相談者がいます。ちなみに、お菓子箱を工作して配薬ボックスを作ったというのはモリカワさんのエピソードです。

モニタリングで本人や訪問看護ステーションにヒアリングしたところ、夏は一緒に家庭菜園や近所を散歩したり、冬は炊飯器を使ってホットケーキを作るなどカンタンにできる調理を行ったりしているとのコトでした。

また、精神疾患がある女性相談者のコカドさん(仮名)の場合、看護師Aさんは本人と一緒に洗濯物をたたんだり、部屋の整理整頓をしたりしているそうです。看護師Bさんが訪問した際は一緒に寄り添い、肩や背中を優しくさするのみ。

一見すると、Aさんが実施しているサービス内容はホームヘルパーが提供する家事援助と同じです。Bさんに至っては家事援助ですらありません。

しかしながら、AさんやBさんが行っているのは、コカドさんが通院する精神科病院の主治医からの指示に基づいた、レッキとした訪問看護の一環なのです。

 

すべては、障害者が安心して在宅生活を続けられるために

それが在宅生活における安心につながるなら、医療行為でないコトも

コカドさんは統合失調症によって精神保健福祉手帳を交付されただけでなく、複雑な生い立ちと母親との関係に悩む愛着障害者でもありました。

親から充分な愛情を受けられずにオトナになった相談者が、以後の人生でどれほど苦しむかについては、過去ブログで綴ったので詳細については割愛しますが(詳しくはコチラ)、コカドさんもまた愛着障害に苦しむ1人でありました。

そこでコカドさんの主治医が訪問看護に指示を出した内容が「できる限り、本人に対するスキンシップを提供してほしい」というものでした。

コカドさん担当の訪問看護師のひとり、Aさんから説明がありました。

本人には主治医から、「訪問看護に充分に甘えさせてもらいなさい」と伝えてあるとのコトです。「だから、センセイに代わって私たちがスキンシップを図っているんです」と。

コカドさんは主治医に絶大な信頼を寄せているとの話なのですが(その点については僕も本人から確認済み)、男性医師なので「僕がそれ(スキンシップ)をやるとセクハラになってしまう。だから」と、女性の看護師に託したのだと。

訪問看護を導入した初期の頃、2名体制で訪問した際に、3人で洋服をたたみながら楽しくガールズトークで盛り上がったそうです。その際、コカドさんは「まるで女子会みたい」と大変喜んでいたそうです。

コカドさんとのかかわりは浅い僕とは違い、A看護師はコカドさん宅に訪問するようになってから10年以上の付き合いになるとのコト。

愛着障害の克服には長い時間を必要としますが、コカドさんの単身生活が安心して継続できるためには、在宅系の障害福祉サービスだけでは本人の充足感は満たされません。

一見、医療行為とは無縁の内容ですが、コカドさんの精神疾患の病状や障害特性を考慮し、主治医が下した診断に基づいた医療ケアのあり方なのだというコトが判っていただけたかと思います。

適切な福祉的支援のためには訪問看護との連携が必要不可欠

まさに「餅は餅屋」なのですが、ホームヘルパーは家事援助や身体介護の専門家であって医療ケアの専門家ではありません。

また、障害福祉サービス事業所のほとんどが介護保険事業を手がけています。当然、主たるサービス対象者は高齢者であり、障害福祉に特化したホームヘルパーは非常に少ないのが現状であります。

計画相談支援を通じて、認知症の高齢者や肢体不自由による身体障害者の支援を得意とする一方、知的障害・精神障害・発達障害などの障害を抱えたケースに対する支援が判らずに困っておられるといった印象を受けるのです。

実際、モニタリングに係るヒアリングに対して、担当のサービス提供責任者から「いえ、特に問題ありません」「何か変化といわれても…」など、曖昧な返答が目立ちます。

ところが、訪問看護に同様のヒアリングを行うと、実は問題があったり何らかの変化があったりと、障害者ケアマネとして正しい現状把握ができるコトがあるのです。

本人の成育歴も考慮した上で、障害特性の正しい理解に基づく支援のあり方や合理的配慮について、モニタリングやサービス担当者会議などを通じて福祉支援者間で共有するための働きかけ。それは障害者ケアマネが果たすべき役割の1つであります。

その際は医療支援者からの所見を求め、主治医の診断について情報共有するコトが必要不可欠であります。そして、相談者の在宅生活を知る訪問看護との連携が最重要項目となります。