福祉サービスを紹介する際の定石、それは複数提示

福祉サービスを紹介する際の定石、それは複数提示

選択肢が圧倒的に少ない身体障害者の居住系サービス

障害者ケアマネの主な仕事はサービス等利用計画の作成ですが、どんな福祉サービスを利用するか一緒に考え、それが決まったら次はどこのサービス提供事業所を利用するか、相談者が納得できる事業所を探す役割も担っています。

ところで人口が千人単位の町村部ではそもそも選択肢が限られており(高齢者福祉のように最低限のサービス提供すら未実施の町村も)、相談者もケアマネも選択に迷うコトがありません。

ところが、これが人口10万人単位の地方都市となってきますと選択肢の幅は広がり、同じ種類のサービス提供事業所が複数あります。当然、事業所ごとに独自性が生まれてきます。

例えば福祉就労所は作業メニューの選択肢が広がりますし、グループホームであれば「1つ屋根の下」タイプで世話人が常駐しているところから、木造2階建てアパートを借り上げタイプの、食事以外はフリーで過ごせるところまで色々と選べるようになります。

もちろん種別によって空き状況にも差異があるため、例えば福祉就労所であれば「定員なので今は受け入れできません」という事業所は片手で数えるほどしかありませんが、グループホームですと受け入れ可能という事業所はほとんどありません。

また、グループホームは障害者支援施設とは違い、あくまでも日中活動が可能な障害者を受け入れするコトを想定してサービス提供される居住系サービスであります。また、人員配置や設備投資にカネがかかるコトから、バリアフリー対応でないグループホームが大半です。

そうなりますと、大半のグループホームでは、重度心身障害者はもちろん、単独による自立歩行が困難な下肢障害者は受け入れできませんという話になるのです。

すなわち、障害者総合支援法では、ADL(日常生活動作)に課題を抱える身体障害者は家族介護による自宅生活か身体障害者療護施設(現在、入所施設は「障害者支援施設」で呼び名は統一)に入所するしかありません。

では、障害者支援施設に入所すればイイじゃないかという話になりますが、「施設から地域へ」をスローガンとしている国の施策で施設入所は大変厳しい現状にあります。まずは待機リストに登録し、いつになるか判らない長い空き待ちを強いられるのです。

 

身体障害者の誰もが施設を希望するワケでない、ではどうするか

しかしながら、たとえ身体障害があっても在宅系の福祉サービスを駆使しながら単身生活をしたり、ドア・トゥ・ドアで送迎対応している福祉就労所へ通所して作業工賃を稼いだりしながら、地域で暮らすコトを強く希望するヒトたちもいます。

まさに国が提唱する「施設から地域へ」のとおり、地域で暮らすコトを希望しており、しかるべき支援さえあれば地域生活が可能な障害者がいたとすれば、法律上、その希望を叶えるための支援をしなければなりません。

ところが、障害者支援施設は国の施策で縮小に向かい、グループホームは徐々に増えるものの身体障害者は事実上の対象外となっている現状では、在宅系の福祉サービスをどれだけ利用できるかにかかっています。

このような情勢の中で、合法的に身体障害者が施設入所でない生活形態を選択する際、わがマチで少しずつ数を増やしているのが障害者の受け入れを表明する住宅型有料老人ホームです。

住宅型有料老人ホームをザックリ説明しますと、在り方のイメージとしては「在宅福祉サービスを提供する高齢者下宿」といった考え方がしっくりきます。実際、どこの住宅型有料老人ホームでも、施設内に訪問介護事業所が併設されています。

老人ホーム内の居室を自宅とみなし、居室の掃除やシーツ交換や洗濯などの家事援助、食堂までの移動・配膳・食事介助・下膳・食後の口腔ケア、さらには入浴介助やトイレ介助などの身体介護を提供するのです。夜間は褥瘡予防のための体位交換もあります。

非常に前置きが長くなりましたが、僕が来月から計画相談支援を担当するコトになった新規相談者のイサオさん(仮名)が急遽、住宅型有料老人ホームに入所せざるを得ない流れになり、その件で前任の障害者ケアマネと共同で空きがある施設2ヵ所へ見学同行しました。

イサオさんは脳性麻痺がある身体障害者です。下肢障害による歩行不安定があり、室内の浴室までの数センチの段差ですら独力では跨げないため、ヘルパーによる入浴介助を受けながら単身生活を10年以上にわたり続けてきました。

近隣に住む両親とは別にアパートで単身生活をしていたイサオさんでしたが、今年の夏に居室内で熱中症になってしまい、同じ福祉就労所に通所する隣の住人の通報で救急搬送されました。

幸い、命に別状はなく即日退院でしたが、「とても独り暮らしはさせておけない」と両親が本人を説き伏せ、「これ以上、周りに迷惑はかけられない」と本人も施設入所を承諾。

そこで、①現在の福祉就労所に通所可能、②ケーブルテレビを視聴可能、③生活保護で支払可能、以上3点の条件を満たす施設を探してほしいと依頼がありました。

そこで、本人の希望を満たす居住系サービスについて前任の障害者ケアマネと協議。それぞれ情報収集し、各自1ヶ所ずつ空きがある住宅型有料老人ホームを見つけるコトができました。

そして最近の話ですが、本人と両親、そして新旧ケアマネ同行による施設見学を実施。結果として前任の障害者ケアマネが見つけてきた方を一本釣りで選択したのでした。

のちに、イサオさんいわく「それ以外にあり得ない」と。決め手になったのは食費でした。

 

ヒトは選択の自由が行使できて、はじめて納得できる

イサオさんが最も気にしていたのはお金の件で、とにかく入所にかかる経費を抑えたいという意向が強くありました。そのためでしょう。僕が探した方の施設で提示された「平日の昼食を取らなくても食費は定額」という条件が受け入れられなかったのでした。

もう一方の施設では、1食あたりの単価で食費が算定されるため、1食あたりは高くつくのですが平日の昼食は福祉就労所で済ませるイサオさんからすれば、定額制より月1万は安くなるのです。

もちろん光熱水費やその他諸経費を勘案すれば2ヶ所ともほぼ同額でしたが(僕が紹介した施設の方がやや安価)、「食べない食費を取られるのは納得いかん」というコトだったようです。

こうしてイサオさんの次の住まいが確定し、翌月は入居に向けた支援が始まるコトになるのですが、結果論としては1ヶ所だけ見学してハイ終了という話なら最も効率的でありました。料金の詳細についても、事前に電話で確認すれば判っていた話でもあります。

イサオさんは40代で、見学には70代の両親がマイカーで同行したワケですから、移動の負担は最小限にすべきだったという話にもなります。

しかしながら、僕の一存で2ヶ所とも見学しましょうというコトで両親の承諾を得ました。暮らすのは僕らケアマネでも両親でもないイサオさんなのですから、というコトで話をまとめたのですが、僕には別な意図がありました。

それは、最終的に本人が選択するであろう事業所があらかじめ判っていたとしても、あえて本人に見学してもらい、疑問や不安をすべて支援者に確認してもらい、その上でどちらか1ヶ所を選んでもらうコトが真の意味で「落ちる」コトを経験で知っていたからです。

ここでいう「落ちる」は、「腑に落ちる」とか「心の底から納得できる」というニュアンスです。

皆さんにも思い当たるフシがあるでしょうが、最も身近な例としては新居や転居による物件探しが挙げられます。最終的に「ココがいい」と選ぶワケですが、満場一致で納得できる場合もあるかと思いますが、たいてい「さんざん見た結果、ココしかない」で決めるのではないでしょうか。

希望に沿うと思われる候補先を1ヶ所でなく複数で見学するコトによって、その中で最良と思える1つを自分の意思で選ぶのが、限定された選択肢の中で納得できる(あるいは諦めがつく)と。

人間、そこしかないとなれば諦めもつくのですが、決める際に他を見ないで決めてしまうと、後で「もっと条件がイイところがあったんじゃないか?」と納得いかない気分になるものです。

ところが、他の候補先を見学し、それらの中で本人が最良だと思った選択肢を自分の意志で選んだのであれば、「やっぱりココは他より良い(良かった)」と納得できます。

中には最初に見学した候補先ですでにココロに決めてしまい、他の選択肢を見学しても動じないという相談者もいましたが、大多数の相談者は複数(僕の場合は最低2ヶ所、選択の余地さえあれば3ヶ所)を提示し、その中から決定してもらっていました。

余談ですが、イサオさんと見学に行った日に入浴介助を実施したヘルパー事業所から電話が入り、イサオさんが即日で入居するホームを決定した旨の連絡がありました。

結果はどうであれ、利用するサービス提供事業所を決める際、相談者に複数の選択肢を提示して、そこから最良の事業所を選んでもらうアプローチは今回も大成功だったようです。