フェンダー・ギブソン・アイバニーズ、「ネックの違い」を徹底比較
- 2019.11.04
- エレキギター

基礎編①~ネックシェイプ
ちょっと意外に思われるかも知れませんが、ネックシェイプにおいて最もバリエーションが豊かなメーカーなのはフェンダーです。
ギブソンとアイバニーズはフェンダーに比べ多彩なモデルをリリースしている印象ですが、ネックシェイプは大差ありません。
ギタリスト以外には通じない話ですが、演奏面で多種多様なユーザーの需要に応えようとしているのはフェンダーです。だからこそストラトキャスターが売れるのでしょう。
基本となるCシェイプ、Cシェイプより分厚く丸みがあるUシェイプ、独特な感触のⅤシェイプに大別されます。
3つめのⅤシェイプはエレクトリック・アコースティックギターで革命を起こしたオベーションも取り入れている形状です。
極端な話、CやUシェイプを楕円形とするなら、Ⅴシェイプは二等辺三角形です。
ちなみに、ギブソン系やアイバニーズ系にはⅤシェイプはありません。オーダーメイドでもしない限り、一般的なエレキギターではまず見かけない形状となります。
エレキギターを弾く際、親指でネックを握り込むようにして弾く派と、ネック裏側に親指を添えるように弾く派に分かれます。
Ⅴシェイプの場合、前者のようにネックを鷲づかみにする弾き方では、頂点が掌に当たるので弾きづらくなります。
しかしながら、後者の弾き方には向いています。指の付け根に接触する部分がほぼ直線ですので、指板側への距離が短くなり、運指がラクになるのです。
ギブソン系は他の2メーカーに比較すると、丸太を真っ二つに割ったような形状の握り応えがあるネックになっています。
ギブソンのスタンダードなネックは太目なのですが、細目は「スリムテーパー」と呼ばれ、1弦側(指の付け根に触れる側)が細目に削られた非対称型のモデルもリリースされています。
手が小さく指が短いギタリストにとっては少々持て余す形状ですが、欧米人のように手が大きくて指が長いギタリストがジャストフィットする形状になっています。
フェンダー・ギブソンとは一線を画するネックシェイプなのがアイバニーズです。
アイバニーズのネックシェイプは、いかに速弾きがしやすくなるかという点だけに特化し、独自の進化を遂げました。
その結果、幅広く、極薄かつ扁平な「ウィザードネック」と呼ばれる独自の形状が生まれたのです。
フェンダー・ギブソンのように楕円形を基本としたシェイプでも、Ⅴシェイプでもない。極端な話、長方形の角を面取りしたような手触りになっています。
つまり、ネックのエッジが楕円形のように丸くなく、Ⅴシェイプのように鋭角に尖ってもいない。まるで、カマボコ板を握っているかのような感触であります。
そのため、ネックを包み込むように握る弾き方をすると、親指と人差指の付け根がネックの両端に接触し、痛みを感じるほどです。
よほど指の長さに恵まれていないと、親指で6弦を押さえる必要がある演奏はやりづらいと感じるハズです。コード弾きやカッティングにも向いていません。
ただ速弾きをするためだけに特化した、非常に限定的なネックシェイプとなっています。
基礎編②~フィンガーボードの指板R
エレキギターはクラシックギターやガットギターとは違い、フィンガーボードの表面には緩やかなカーブが描かれています。
この曲線はラディアスと呼ばれ、略して「R」と表記されます。その曲線がきついカーブかどうか、その割合を3ケタの数値と組み合わせて表記します。
なお、その3ケタの数値が小さくなればなるほど、表面のカーブがきつくなります。
最もきついカーブを描くのがフェンダー系で「184R」、次にギブソン系で「305R」、最も扁平率が高いのがアイバニーズで「430R」です。
フィンガーボード表面のカーブがきついか緩いかで、どのような弾き心地になるか?
仮に、どちらかの手で輪っかを作ってみると、親指と人差指がそれぞれ半円となるのが判ります。親指と人差指以外も半円となります。直線でないコトが判ります。
つまり、Rの数値が小さくなるほど「握る」という人体の動きに合致しているコトになります。
そのため、フェンダー系が最もストレスなく弦を押さえるコトができます。さらに、コード弾きやカッティングのように複数弦を押さえる際も有利です。
一方、ほぼ扁平ともいえるアイバニーズは指をまっすぐ立てなければコード弾きができず、セーハ(主に人差指で弦すべてを押さえる)も押さえづらくなります。
では、どのメーカーもRの数値を小さく製造すればイイ話になりますが、特にアイバニーズは真逆の方法論でネックを製造しています。
その理由は、扁平だからこそ活かせる「あるメリット」を享受するためのものであります。
そのメリットとは、「弦高を下げやすい」という速弾きにとって最大限のメリットを狙えるコトによるものであります。
フィンガーボード表面のカーブがきつくなると、一律で弦高を下げるとフレットに干渉してしまい、音が途切れたり雑音が混じったりするデメリットが生じます。
つまり、中心部が盛り上がってしまうため、1~2弦および5~6弦がフレットからの距離が空き、3~4弦がフレットに近くなります。
そのため、古き良き184Rのトラディショナルなストラトキャスターは思った以上に弦高が高めにセッティングされています。
決してシロウトにはオススメしませんが、弦高を下げたいのであればブリッジの調整だけでなく、ナットの溝を弦ごとに削りながら調整する必要があるのです。
一方、6つの弦に対して平行にフレットが打ち込まれているアイバニーズは弦高調整がしやすく、フレットまでの距離が近くなるため、速弾きがやりやすくなります。
応用編~ネックシェイプと指板Rの違いからメーカーを選ぶ
親指でネックを握り込むギタリスト向き→フェンダー系
速弾きもコード弾きもカッティングも、オールマイティにこなしたいギタリストが選ぶべきなのはフェンダー系です。
弦高調整に苦慮しそうですが、プロのリペアマンにお願いするかブリッジ調整によって可能な限り弦高を低くセッティングし、各自で速弾きのしやすさを追求するとイイでしょう。
フェンダーの場合、ⅤシェイプかCまたはUシェイプ、あるいは左右非対称のモダンCや、通常のUシェイプより厚みがあるディープDといった幅広い選択肢があります。
親指でネックを握り込んで弾くギタリストは、フェンダー系のネックシェイプが最も弾きやすいと感じると思います。
太めのネックが好みのギタリスト向き→ギブソン系
フェンダー系のネックは細くて落ち着かないとか弾きづらいと感じるギタリストはギブソン系のネックシェイプから選ぶとイイでしょう。
指が届かないほど太いネックは弾きづらいものですが、逆に細すぎると感じるネックも弾きづらいものです。
ガッチリ握り込んでしまうと指の長さが余ってしまうため、ネックの裏(掌との接触部)に隙間を開けて調整しなければならなくなるため、コード弾きやカッティングがしづらいのです。
マーチンに代表されるアコースティックギターは信じられないくらい太いネックシェイプですが、アレは欧米人がコード弾きする上でジャストフィットする厚みなのでしょう。
同様の理由で、手の大きさに恵まれたギタリストはギブソン系の図太いシェイプが馴染むようです。
「Nothing’s Carved In Stone」の生方真一さんも、ES-335のシグネチャーモデルを制作した際、好みだったので太いネックにしてもらったとの話をされていました。
ただし、ギブソン系はフェンダー系よりもネックが太い一方、レギュラースケールよりも2センチ短いミディアムスケールです。
フレットの間隔が狭く、弦のテンションが緩やかになります。押さえる際に柔らかく感じますし、ストレッチ奏法がラクになります。
フェンダー系とギブソン系、特徴によって一長一短ですので、プレイスタイルやジャンルの違いでその都度、使い分けるのも面白いかも知れません。
速弾き一辺倒のギタリスト向き→アイバニーズ
テクニカルなプレイで弾き倒すメタル寄りのハードロック派にオススメなのはアイバニーズです。
世界を席巻する2大ギター、ストラトキャスターやレスポールはメーカーを超えてほぼ同じ系統。しかしながら、アイバニーズは唯一無二のネックシェイプを誇ります。
幅広く極薄なネックシェイプ、ほぼ扁平なフィンガーボードという独自の進化。
コレは、僕が愛してやまないロードバイクと同じ存在意義を有しています。すなわち、ただ1つの目的を追求するために、それ以外のすべてを排除したエレキギターです。
ただ速弾きだけを追求し、多種多様なプレイスタイルを一切拒絶する孤高の存在。
ムダを一切削ぎ落したそのフォルムは、その極致を体現した造形美に満ちています。しかしながら、あまりに偏った演奏性はギタリストを選びます。
ジャンルを問わず何でもアリのバンドで演奏するギタリストや、ネックを鷲づかみにして、親指でグッと握り込んで演奏するギタリストには不向きです。
また、指板Rに慣れてしまうと、フラット指板はどうも押さえづらいと感じるようになります。
その証拠に、アイバニーズを愛用するプロのギタリストが他メーカーのエレキギターを使うコトはほとんどありません。
ポール・ギルバート、スティーヴ・ヴァイ、ジョー・サトリアーニ。いずれも世界に名だたる超絶技巧の天才ギタリストですが、彼らがライヴで使うのは決まってアイバニーズです。
アイバニーズが使いやすいギタリストは、アイバニーズ以外はシックリ馴染まないのでしょう。
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