ストラトキャスター人気がレスポールを上回る理由

ストラトキャスター人気がレスポールを上回る理由

なぜ、ストラトキャスターの人気がレスポールを上回るのか

一定数のコアなファンからの支持を受けるレスポール、圧倒的な人気を誇るストラトキャスター。

いずれもエレキギターを代表する二大巨頭ですが、より多くの人気を集め、ユーザー数が多いのはストラトキャスターに軍配が上がります。

嗜好品という点からは、単に高性能高品質だから売れるとは限らないのが面白いところです。

例えば、世界一の走行性能を誇るバイクを世に送り出しているのはホンダですが、一定数「オレは絶対カワサキ!」というライダーもいます。スズキやヤマハも然り。

そういう観点から、決してレスポールがエレキギターとして劣等だとは思いません。レスポールをこよなく愛するプロのギタリストは世界中いたるところに存在します。

日本が誇る超絶技巧の極致、B’zの松本孝弘さんもレスポールをこよなく愛し、ご自身のシグネチャーモデルが制作されるほどのギブソン党であります。

事実、プロのギタリストがレコーディングやライヴで使用するのですから、レスポールは卓越したエレキギターの至宝であります。

ところが、こと「人気」という点においては完全にストラトキャスターに軍配が上がります。では、なぜそこまで人気に差がついてしまったのか? 今回はその点について考察します。

 

贅を尽くした徹底的な造り込み~ギブソン・レスポール

まず、レスポールに集約されるギブソンの神髄は「狭く深く」であります。生産コストを惜しまず、贅を尽くして徹底的にこだわった造り込みがギブソンの企業方針。

マホガニーのネックを接着剤でジョイントするセットネック、ボディ表面にメイプルを貼りつけたマホガニーのボディ。ボディエッジを飾り立てるバインディング。

フィンガーボードのポジションマークだけでなく、ヘッドの「GIBSON」ブランドロゴマークもインレイとして埋め込まれ、木目の美しさまで徹底的にこだわったサンバースト塗装。

見た目だけの豪華さだけではありません。演奏性も考慮された加工もなされています。

重厚かつ濃密な中音域を鳴らす分厚いマホガニーバックに貼りつけられたメイプルにも手が込んだ加工です。中心に向かって丸く隆起する「ラウンドトップ」と呼ばれる加工です。

この加工によってコンター加工と同等の弾きやすさが得られるだけでなく、流線型の美しい造形が光を美しく反射させるという視覚的な効果も生み出しているのです。

実際に楽器店で実物を目の当たりにすると、まるで高級な宝飾品を思わせる溜息ものの美しさ。照明に燦然と輝く艶やかさは、見る角度によってさまざまな光を放つのです。

トラディショナルかつゴージャス。それがレスポールに代表されるギブソンの真骨頂といえます。

 

ギタリストの多様性を最優先~フェンダー・ストラトキャスター

一方、ストラトキャスターに集約されるフェンダーの神髄はギブソンの真逆をいく「広く浅く」であります。世界を席巻する2大ブランドの方針に見事なくらい相対するものであります。

ストラト使いの端くれとして身もフタもない言い方をしてしまいますと、ストラトキャスターは

効率的に生産性を上げる製造プロセスの確率

誰がどのような使い方をしてもソコソコ鳴らせる

この2点に集約されます。

材質だけでなく木目の美しさにも徹底的にこだわって厳選された木材を使い、クラフトマンが手間暇をかけて造り上げたのがレスポールなら、ストラトキャスターは真逆をいくものであります。

ボディは2~3枚を貼り合わせたアッシュ・アルダー・バスウッドのいずれか。ネックはネジ4本でボディに固定するボルトオンジョイント。電装部品と一体化させたピックガード。

ボディエッジを飾るバインディングはありませんし、ヘッドのブランドロゴはデカール(シール)、貼り合わせられた継ぎ目がモロに見えても全く気にしないサンバースト塗装。

エレキギター自作派であれば納得いただける話になりますが、ボルトオンネックは穴さえ開ければ数十秒で組み上げられます。ネジを4本、ドライバーで締めれば完成ですので。

さらに、ピックアップ、ヴォリューム・トーンポッド、セレクタースイッチが一体化されたピックガードは、ボディに装着すればアウトプットジャックの配線をハンダ付けするだけの手軽さ。

演奏性を向上させるコンター加工(ボディで身体に接触する箇所を削る)も直線的です。

 

経済性・汎用性・操作性:ストラトキャスター人気を支える3つの理由

では、なぜストラトキャスターの人気がレスポールを上回るのか? その理由を分析するカギは、「経済性」「汎用性」「操作性」の3つに集約されています。

理由その1:経済性

まずは経済性ですが、要は同等のスペックを求めようと思えばストラトキャスターの方が安く済むというコトです。レスポールは製造コストがどうしても割高になってしまうのです。

製造コストとしてはザックリ材料費と人件費の2つ挙げられますが、レスポールはその構造ゆえ、人件費がブッチギリで高くついてしまうのです。

まず、ボディはメイプルトップ・マホガニーバックの接着から始まります。そしてラウンド加工。現代はNCNルーター成型がスタンダードですが、昔は手作業で行われていました。

セットネックは接着剤が乾くまで時間がかかりますし、乾くまで固定するにはクランプ(接合部を挟み込む工具)が必要となります。

電装部品は1つずつ個別に取りつけなければなりませんし、配線もまたボディ内部に血管のように開けられたルートをくぐらせながら1つずつハンダ付けしなければなりません。

インレイやバインディング加工も手がかかります。まずは正確無比に接着部を削り落とし、慎重にパーツを貼りつけ、接着剤が乾燥するのを待たねばなりません。

このように、高級な宝飾品のごとく美しいレスポールは製造工程においてストラトキャスターとは比較にならないほど手が込んでしまうのです。

タダでさえルックスまで厳選された高価な木材をふんだんに使用し、職人の人件費も加算される。ゆえに、レスポールはストラトキャスターを凌駕する高額設定となるのです。

一方、ストラトキャスターはレスポールに比べると、ちょっとチープさを感じるほど簡素化された構造となっています。逆にいえば生産コストが抑えられるので廉価で買える。財布に優しい。

また、単純な構造は、ウラを返せばギタリストが自前で手を加えやすいというコトでもあります。僕のようなシロウトでも、やろうと思えばネック交換やピックアップ交換ができてしまう。

さらに、購入コストだけでなく、維持コストにおいてもストラトキャスターに軍配が上がります。

例えば、レスポールのネックが折れたりフレットが摩耗しすぎて擦り合わせできなくなったりした場合、プロのリペアマンに修理または交換を依頼しなければなりません。

一方、ストラトキャスターであれば、新品パーツを取り寄せてドライバーでネジを外しネックごと交換してしまえば、シロウトでもどうにか対処できます。

もちろん、厳密な意味では状況に応じてフレット擦り合わせやロッド調整をする必要がありますが、レスポールの修理よりもはるかに安価に済みます。買った後も財布に優しいのです。

理由その2:汎用性

演奏面において「ストラトキャスターならできるけど、レスポールにはできないコト」があります。モディファイを一切せずにできるコト。すなわち、それこそが汎用性の差です。

代表的なのは、アームの有無によるヴィブラート奏法ができるかどうかの差です。

ストラトキャスターにはシンクロナイズドトレモロユニットと命名されたヴィブラートユニットが標準装備されています。レスポールはステップテールピースによる固定式。

チョーキングのヴィブラートでは演奏できない音の揺らぎを意図的に行うためには、ヴィブラートユニットが必要不可欠。レスポールでやろうと思えば大掛かりな加工をしなければなりません。

また、音質面の汎用性においてもストラトキャスターに軍配が上がります。

シングルコイルはクリーントーンの心地よい鈴鳴りやクランチトーンの小気味よい切れ味が魅力。一方、激しい歪み系エフェクターを使うとノイズが酷くなる欠点も。

そのため、歪み系サウンドを重視するギタリストのために「SSH」と呼ばれるリアハムバッカー仕様のストラトキャスターがリリースされています。

分厚く艶やかな中音域が強調されたディストーションサウンドはレスポールの方が優れていますが、小気味よいカッティングもハードなギターソロも弾きたいならストラト一択。

厚みがあって艶やかな中音域「だけ」を堪能したいならレスポール一択ですが、例えば多種多様なジャンルで演奏するギタリストならストラトキャスターの方が使いやすいと感じるハズ。

レスポールほどの押しの強さや個性はない。でも、どんなジャンルだろうが、どんな演奏だろうが、やろうと思えば何でもデキる。そういうフトコロの深さがストラトキャスター人気のキモ。

理由その3:操作性

欧米人のように手が大きく体格に恵まれたヒトには関係ない話となりますが、僕のような短躯かつ手指が小さく短いギタリストにとって、ストラトキャスターの操作性は非常にありがたい。

操作性における最大の差はハイフレットの弾きやすさ。レスポールは、ネックジョイントの形状とボディの厚みの問題から、親指でネックを握り込んだままでは指が届かないのです。

そのため、例えばレスポール愛用のひとり「X JAPAN」のPATAさんは親指をネック裏から離して弾いています。不安定になるので誰もができるワケではありません。

一方、ストラトキャスターであれば、ネックを握り込みながらハイフレットをラクラク弾くコトができます。速弾きに特化する場合はストラップを短めに構える必要がありますが。

また、演奏の途中でピックアップを頻繁に切り換える場合、レスポールは非常にやりづらい。弦を弾く側の手から離れたネックジョイント側のストラップ付近の位置にあるからです。

一方、ストラトキャスターはピッキングストロークの軌道に沿うように斜めに配置されています。アップストロークに合わせて、中指か薬指でフロントに切り換える動作も自然にできます。

さらに、間接的な操作性という点において、エレキギター本体の重量もストラトキャスター人気を後押ししています。軽さは正義です。特に、長時間でステージに立つ場合において。

たとえ同一シリーズでも100グラム単位での重量差があるほど個体差が激しいエレキギターですが、ストラトキャスターは3.5キロ前後、レスポールは4.2キロ前後が標準的。

その差は700グラム前後ですが、たかが700グラムと侮るなかれ。

普段持ち歩くショルダーバッグやリュックに、ペットボトルが丸ごと1本あるのといないのとでは全然違うのをイメージしてみてください。

僕の手持ちではストラトキャスターが2本ありますが、片や3.1キロ、片や3.5キロあります。およそ400グラムの差ですが、ネックを掴んで持ち上げた瞬間、重量差が明らかに違うのが判る。

ただし、軽ければ良いというものでもなく、軽過ぎるのも逆に扱いづらさを感じますし、サウンドも軽めになります(面白いコトに、材質の硬軟や軽重どおりの響きになります)。

とはいえ、普段ストラトキャスターに使い慣れたカラダでレスポールを借りると思わず「重っ!」となります。ボディは分厚い、ネックは図太い。

何度も繰り返しますが、軽さは立派な強みとなります。演奏中もラクですし運搬もラクです。

こうした扱いやすさが僕のような短躯な男性だけでなく、女性や子供にも優しい。レスポールより取っつきやすい。

こうした直接的・間接的を問わずに優れた操作性を誇る点もストラト人気に拍車をかけています。

*  *  *

レスポール・ストラトキャスター、いずれも素晴らしいエレキギターであります。その点に意義は全くありません。

しかしながら、両社の企業理念や方向性は明らかに違うのは実に興味深いものがあります。

ストラト使いの僕が分析すれば以上のようになりましたが、レスポール使いが分析すれば、僕とは一味違った解釈を知るコトができると思います。