相談支援の事例から~福祉と愚行権、社会福祉士の考察

相談支援の事例から~福祉と愚行権、社会福祉士の考察

以前、障害がある方々が地域で安心して豊かな暮らしを送れるために、われわれ社会福祉士としてどのような考え方をすべきか悩んでいるというブログを綴ったコトがあります。

そのヒトにとっての「豊かな暮らし」とは? 十人十色の人生がある中で、杓子定規に推し量れるものではありません。

それどころか、一部の相談者には「なんでそんなコトになるかなあ?」と言いたくなる人生を送るヒトもいますし、本人は良かれとしても家族や支援者が振り回されるコトに…。

しかしながら強引に正論へ導いたところで、本人の納得なしに反発が生まれるだけ。むしろ状況が悪化するコトにもなりかねません。

そこで、金銭管理に課題を抱える相談者に対し、金銭管理や身上監護を家族または法律の専門家が代行する制度、成年後見制度の実例と愚行権の在り方について僕なりの考え方を綴りました。

参考

「社会福祉士の苦悩~障害福祉における愚行権の行使について」→コチラ

あれから2年が経過し契約者数が90件を超え、障害者ケアマネとして未だにそのあたりの苦悩が続いています。というか、新たな苦悩が増えるワケでして、今回はそのあたりの事例を。

事例1:モモコさん(仮名)の場合

モモコさんはもうすぐ還暦を迎える女性相談者です。ホームヘルパーの家事援助を利用しており、サービス提供事業所から支援依頼を受けて計画相談支援を開始しました。

モモコさんはバツイチで、生活保護を受けてボロアパートで単身生活を送っていました。週1回の家事援助を利用しながら地域活動支援センター(以下「地活」)へ通所する毎日。

異変を察知したのが件の地活スタッフでした。「ゼロさん、ちょっといいですか?」

その異変とはお金の使い方。出会い系サイトの課金アイテムで毎月数万円を支払っているらしい。また、元夫と親密な関わりがあるのはイイのですが、頻繁に借金をしているコトも明らかに。

担当ケースワーカーからの依頼を受け、すべての借金を明らかにした上で返済計画を立案。出会い系サイトも課金ばかりさせられて、実際に相手と会うどころか話をしたコトもない始末。

非常に品性を欠いた表現で恐縮ですが、完全に典型的な悪徳業者のカモとなっていたのです。

「僕としてはあまり言いたくないんですけど、モモコさん絶対に騙されてますよコレは」

人が好いモモコさん、それもそうだと納得。以降は課金サイトには一切アクセスしないコト、今後二度とお金で苦労しないよう、成年後見制度の利用を提案し、二つ返事で了承してくれました。

担当ケースワーカーからの依頼で急遽、臨時ケース会議を開催。ホームヘルパー・地活スタッフ・かかりつけ病院の精神科ソーシャルワーカーを集め、後見人の弁護士も同席して協議。

実はモモコさん、療育手帳は取得していないのですが、かかりつけ病院での心理検査で軽度の知的障害があるコトが明らかに。また、複雑な家庭環境で、身内は誰も味方してくれない状況。

結果、当時暮らしていたボロアパートを退去してグループホームへ入居するコトになり、元夫への借金など不良債権はすべて後見人が処理してくれるコトに。

ところが、それで課題解決とならないのが辛いところ。僕を含めて、モモコさんの支援者が抱える苦悩は続いたのです。

まず、後見人が渡す小口現金をすぐ使ってしまう。弁護士事務所の職員があらゆる手段を講じても結果は変わらない。

そのうちにモモコさん、「一生懸命やってるのに弁護士センセイの事務職員にいつも怒られる」と地活スタッフに泣いて訴える始末。

そこで後見人と地活スタッフが協議し、通帳や印鑑などメインバンクは後見人が管理し、小口現金を地活スタッフが預かって本人に渡す方法に変更。双方のストレスは劇的に軽減。

ところが今度は別な問題が新たに発覚。同じく単身生活を送っている元夫が加齢や認知症で生活に困っている、だから私が…というコトで、元夫宅に入り浸っているとの情報が。

不適切な金銭授受が止められない関係が続いていました。支援者一致の判断として、元夫には連絡を取ったり会ったりするだけに留め、借金は絶対にしないとモモコさんと約束していました。

今回はそれを破ったワケでして、しかも元夫宅に入り浸っているうちに精神的に調子を崩し夜中にタクシーを呼んで救急外来を受診。そのタクシー代も元夫に借りたのでした。

当然、後見人はおかんむり。物腰柔らかで温厚なセンセイなのですが、ない袖は振れぬというワケでタクシー代は渡せないという話に。

何度も繰り返しますが、モモコさんはとてもお人好しであります。困っている(と、モモコさんが思っている)元夫の現状を見過ごせないのでしょう。

元夫は、要介護認定を受けて介護保険サービスを導入するコトになったと報告を受けていました。現在も地区の地域包括支援センターが支援に入っています。

モモコさんの介入が下手をすればマイナスに作用する状況の中、元夫に介護度がついて公的支援を受けられるようになれば状況が変わると思いたいのですが…。

事例2:ミツグさん(仮名)の場合

次は、中度の知的障害があり、てんかん治療で定期受診する40代男性相談者、ミツグさんの事例です。

ミツグさんとの関わりは僕の転職前に遡ります。当時、ミツグさんはお務めを果たし塀の外に出てきたばかりでした。彼を担当する保護司からの支援依頼を受理したのが始まりでした。

いったん僕が退職したコトによって関係が切れたのですが、半独立型社会福祉士としてリスタート後に、引継をした元部下からミツグさんの計画相談支援を依頼されて現在に至ります。

ミツグさんは前科者でした。いずれも軽犯罪でしたが、過去4つの刑務所を渡り歩いてきました。僕が退職する前の年に再び犯罪を起こして逮捕・起訴され、2年の実刑判決を受けました。

決して短くない相談支援の経過から、ミツグさんが危険人物でないコトは充分に判っていました。過度のストレスが続くと間違ったコトをしてしまう。要はそういう状況に置かれなければイイ。

そこで、彼を受け入れしてくれる就労継続支援B型事業所を元部下が見つけ、ミツグさんもそこで再出発するコトを強く決意。ご両親からも担当に戻るコトを乞われ、2回目の契約締結。

そこからのミツグさんの活躍は目を見張るものがありました。そのB型事業所は一般就労を目指し、過酷な作業メニューをあちこちで契約しては通所者に課していく。

その代わり、わがマチでも突出した作業工賃を稼ぎ出し、毎月ミツグさんに支払っていました。

大変残念なコトに大病を患ったお父さんが逝去。現在はお母さんと2人暮らしをしながら、将来の一般就労に向かって過去の自分にリベンジするかの如く仕事に打ち込んでいたのですが…

ミツグさんの異変を知らせる電話があったのは、今から1年2ヵ月ほど前のコトでした。ちょうど、ミツグさんの計画相談支援の更新月のちょっと前のコトです。

「実はゼロさん、ミツグさんが知り合った女性にお金を渡してるらしくて…」

最初のキッカケは出会い系サイトあるいは夜の飲食店のようです(そのあたりはミツグさんが言葉を濁すので推察ですが、いずれかでしょう)。

相手の女性はなかなか世間ズレしているようで、明らかにミツグさんを脅したり甘えたりしながら関係を続け、作業工賃が支給される日になるとLINEで連絡を寄越してくる。

それでいて、ミツグさんとは彼氏彼女の関係は一切みられない。完全に金ヅル扱いなのは明白。

去年の夏、仕事で複数にわたり県外へ宿泊しているのですが、ミツグさんは「仕事」と嘘をつき、実際は件の女性と旅行に行ったと告白しました。しかも経費は全額ミツグさん持ちで。

ミツグさんは以前から、特定の女性との親密な関係を強く望んでいました。再び過ちを犯す前にも交際相手がいました。その相手とも面識があったのですが、手紙で別れを告げたのです。

ミツグさんは、執行猶予の余地なく実刑判決を喰らってしまった。その罪状が女性を相手に過ちを犯したものですから、彼女が別れを切り出すのも当然の判断。

そして現在。ミツグさんは特定の女性に乞われるまま、金品をセッセと貢いでは毎月の作業工賃を使い果たし、お母さんにお金をたかる日々を過ごしていたのです。

そのあたりのお話は僕もミツグさんから、そしてお母さんから直接確認しました。

ここではその詳細は省きますが、ミツグさんを強く諫める立場だったお父さんがご存命なら今回のトラブルは恐らく回避できていたコトでしょう。

しかしながらお母さんはミツグさんにせびられるがまま、憤懣やるかたない思いであっても結局、なけなしの生活費を渡してきたのです。こういうと身も蓋もないですが、どちらにも非がある。

そのあたりは家族会議でも問題になったようで、お父さん譲りの頑固かつ激しい気性のお兄さんが大激怒。お母さんが止めに入らなければ、ミツグさんに鉄拳制裁が加えられたでしょう。

また、「ミツグくんにお金を渡してしまうお母さんも悪い」と、お兄さんの嫁からコンコンと説教されたようで、2人ともキツいお灸が据えられたようでした。

そこで僕から成年後見制度の利用について2人に提案したのですが、どうも反応が薄い。

最初、僕からの制度説明の理解ができていないためと思ったのですが、どうもそうではない。理解した上で拒否しているのだと推察したのは、提案してから数ヶ月が経過してからのコトです。

「そうか、ふたりとも誰かに自分の(息子の)金銭管理されるのがイヤなんだな」と。

確かに、仕事は一生懸命こなしている。でも、稼いだお金をすべて(あるいはほとんどを)女性に渡してしまう。今のまま一般就労と単身生活に移行したら問題はさらに悪化する。

当初はミツグさんの一般就労や運転免許の取得に積極的な立場を崩さなかった福祉就労所の管理者も、ミツグさんの日常生活をこのままにしておけないと判断したようでした。

今回の計画更新の際、ミツグさんが将来、実家を出て単身生活を送りながら一般就労に打ち込める生活を送るためには金銭管理は必須課題となります。

そこで福祉就労所の管理者から提案があったのが、本人と話し合って独立資金を貯金する年次計画を立てるコトでした。月2~3万円を貯金していく。20万円も貯まれば独立できる。

ミツグさんには福祉就労所の管理者から提案がなされ、ミツグさんも前向きに検討するとの話に。

ところが、です。その話は開始2ヵ月を待たずに頓挫するのでした。

ミツグさんは以上のお話を一切お母さんに報告していないどころか、またしても稼いだお金を件の女性に渡してしまい、タバコ代はおろか、病院までのバス賃すら出せない状況になったのです。

決して万能ではない成年後見制度

以前のブログで、僕は「相談者が豊かな暮らしを送れるためのお金の使い方が重要」と後見人から学んだ件を綴りました。そして、その考え方に変わりはありません。

ところが、モモコさんもミツグさんも、愚行権を行使するのはイイけれど、どちらも豊かな暮らしを送れるお金の使い方ができているとは思えない。

では、モモコさんの後見人がこれまでゆるやかに行使していた代理権を最大限に発動して、彼女のお金の流れをガチガチに締め上げれば解決するでしょうか?

また、ミツグさんに後見人をつけて、件の女性にお金を渡すことができないよう法的拘束力を発動すれば事態はすべて丸く収まるでしょうか?

その答えはノーです。本人たちが心から納得し、「豊かな暮らし」の概念が一致しない限りは。

これまでの経験上、成年後見制度は万能でないコトを僕は知っています。成年後見制度が金銭管理にまつわるすべてのトラブルを100%解決できる制度ではないのです。

例えば、被後見人であっても「正当な契約」に伴う支払いの義務からは逃れられないのです。

相談者が「新しいスマホが欲しい」と自分の意志で来店して契約した場合は取り消しが効かない。担当の後見人に抗議したコトがありますが、無効にできないとの回答がありました。

携帯電話販売店に呼び出され、騙されて契約させられるといった不当な契約行為は無効にできるが、正当な契約行為における合法的な請求額であれば相手の言い値を支払わねばならない。

こうなると、後見人ひとりの力では課題解決できないというコトになります。そこで多職種連携による支援チームの出番です。福祉・医療・司法が分野ごとに補完しあって支援するしかない。

伝家の宝刀を抜く前にやるべきコトを

そこでミツグさんの話に戻りますが、今後の支援方針について「僕らに判断を預けてほしい」と、福祉就労所の管理者から提案がありました。

それは、成年後見制度の導入を早期に行うのではなく、ミツグさんの意志を尊重し、彼の自助努力で実現させるコトが見込める方法から始めるというものでした。

これまで周りから反対されると思い固く口を閉ざしてきたミツグさんですが、ここにきてようやく支援者からのアドバイスを受け入れる気になっています。

そこで、ミツグさんからの告白と深い反省の意志を確認した福祉就労所から彼に提案を持ちかけたとのコトでした。要約すると以下のとおりです。

・現時点では成年後見制度によって他者に金銭管理を委ねるのがイヤだと思っている

・件の女性にお金を渡す繰り返しをどこか軽く考えていたが、今回は深く反省している

  ↓

・管理人ゼロが今回の件を知れば、成年後見制度を利用しろと強く言われる

・成年後見制度が導入されたら、誰かに金銭管理される状況が一生つづくコトになる

  ↓

・今回の件は管理人ゼロには伝えないので、これからは二度と相手にお金を渡したりしない

・次の作業工賃が入るまで、母親にお金をせびったりせずにタバコを買うのを我慢する

 結論から申し上げますが、僕は福祉就労所の管理者から提案を全面的に支持すると返答しています。現時点において最良の支援方針であると判断した旨も伝えました。

成年後見制度を利用せざるを得ない状況、さまざまな経験を積んで失敗を繰り返し、最終的に納得して専門家に任せたいと思うまで導入すべきでないという意向を伝え、お任せした次第です。

いずれミツグさんには成年後見制度の利用が必須と僕は判断していますが、もしかすればその判断が間違いだったとミツグさん自身が証明するコトになるかも知れません。

そして、その証明によって、僕が認識を改める事態になってほしいと心から願っています。

最後になりますが、モモコさんとミツグさんの事例から得られる教訓、それは…

まずは、あるべき愚行権の行使の在り方と、支援者としてどのように寄り添っていくかという答えはそう簡単に出せるものでないというコト。苦悩が続くのも仕事のうちというコトです。

もう1つは、福祉支援者・医療従事者・司法関係者が単独で解決しようとしても不可能というコト。僕ら社会福祉士だけがどんなに頑張っても、支援困難ケースの対応には限界があります。

彼ら彼女らの支援チームが連携強化を図りながら情報を共有し、必要があれば一堂に会して協議を重ね、あるべき支援方針を模索していく。それ以外に課題解決の手立てはありません。

支援困難ケースに寄り添うには、支援チームの存在が必要不可欠。

然るべき支援を行わず、ただ成年後見制度を導入しただけでは「正しい愚行権の行使」の実現など絶対にあり得ないというコトです。